連載長編小説
52.第四章 第7話
ノエルが地球で住んでいるのは、市街地のすぐ傍に隣接したマンションの一室だった。とある統計によると、人口の増えすぎた地球では住人の7割はこういった集団住宅で暮らしているらしい。
一人暮らしにしては少し広いくらいの、余裕のある部屋だ。立地条件もいいということもあり地球市民の誰もが憧れるような物件であったが、ノエル自身は今の住居に満足はしていなかった。なぜなら……
「ふぅ、動物の居ない生活ってものは凄く寂しいですね……」
たまたま大学での講義が休みだったノエル。今日は休みの予定だった。
もともと今の家はエクスペルからこちらに移住する時、クロードが手配してくれたものだ。一見すると非常に落ち着く雰囲気の部屋である。木の香り漂う支柱に、純白だがどこか柔らかみのある壁紙。大きなベランダからは地球の大都会が一望できる。
しかしここはマンション。それゆえにペットの飼育などは一切許されていなかった。たったそれだけのことなのだが、その掟ゆえにノエルは心が窮屈になることを余技なくされていた。
ネーデでもエクスペルでも動物に囲まれて生活を送っていた身にとっては、今の生活は心地がいいとは言えない。黙っていれば物音もしないような静かなこの部屋が、なんだか不気味に感じられることもあった。
「はやくエクスペルに帰りたいものですね……」
ベランダに出たノエルは空を舞う鳥の群れををじいっと見つめながらそう呟いた。
彼はもともと契約期間付きで地球の大学の講師をやらせてもらっている。エクスペルでは最先端の動物学から疎くなってしまうため、たまにはこういった研究機関に足を運ばないといけないな、と思ったことが理由だ。
だが、この地球に来て初めて悟った。自分にはこういう研究は向いていないと。
地球には身近に自然が無い。あるとすれば人為的に管理されたごく僅かな地域であり、惑星表面はほとんど人類の文明の腕が伸びつくしてしまっている。今ここから見える光景にも、本当の自然と呼べるものはどこにもなかった。
広い市民公園や街路樹、そしてノエルの部屋にあるような観用植物のプランターで大切に育てられている花などは、どれも人が手を加えたものだ。
ノエルは、自分は野生生物と直に向き合って研究をするのが一番だと気がついていた。ネーデのような保護区域でもなく、檻の中に居るような実験用の動物などでもなく、エクスペルで生き生きと動く野生動物と手で触れ合い、息遣いを感じて自分なりに生態系を解析していく。
それこそが本当の動物研究なのだと自分なりに結論を出したつもりだった。
だから、もう地球で契約更新をするつもりは無い。あと半年弱、契約が終わればすぐにでもエクスペルに帰るつもりだ。
ノエルは黙って戸を閉めた。外界の音が遮断されて静まり返った部屋に、ベランダから入ってきた日差しによって映し出されたノエルの影が伸びていく。
その頭の部分から、自分の尖った耳がにゅっと生えるかのように先端を露にしていた。ネーデが滅びてから4年が経つのか。ノエルはふとそんなことを思った。
「さて、ではそろそろ行きますかね……」
ノエルは自分の部屋に飾ってある武器を取り出すと、すっと鞄にしまった。魔力を増幅する効果がある、通称“サーペントトゥース”と呼ばれる金色のナックルだ。
「クロードさんとまた、戦いに行かなくては……」
ノエルは携帯電話に映し出された、先ほどクロードから届けられたメールに目を通すと、鞄を担いで玄関の方へと歩いて行った。
「今度こそは……同胞の皮を剥いでやる」
これが届いたとき、そしてその内容を見たとき、ノエルはそう思わずにはいられなかった。
「おい、レオン君!」
紋章科学研究所の研究棟で本を読んでいたレオンであったが、突然自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
レオンは読みさしの本を机の上に置くと、何事だろうかと重い腰を上げる。声の主はあらかた見当がついていた。
部屋を出たレオンを待っていたのは、紛れもないユリウス博士。もう飽きるくらい聞いてきた声色だった。扉のすぐ傍で、待ってましたと言わんばかりの顔をしている。よっぽど伝えたいことがあるんだろうなとレオンは思った。
「なんですか、博士?」
フェルプール独特の猫のような耳元を掻きながら、レオンは面倒臭そうに訊ねる。
「レオン、これを見たまえ!」
急な口調でユリウスはそう言うと、ばっと小さな雑誌を自分の目の前に押し付けてきた。酷く焦りを含んだ表情である。
「そう言われましても、こんなに近づけられちゃ読めま……」
「いいから早く読め!」
ユリウスはレオンの言葉を遮るかのよう、雑誌をさらに自分のほうへと突きつけた。こいつは人の話を聞いちゃ居ないなとレオンは不機嫌そうに溜め息をついたが、何か緊急事態のような様子であるため渋々とその雑誌を手にすることにした。
渡された雑誌は「Journal of Emblemical Science」、通称JES(ジェー・イー・エス)と呼ばれる論文誌だった。毎月発刊されるこの冊子には、厳選された紋章科学関連の論文が掲載されている。よくある学術雑誌の中でも極めてランクの高い雑誌であり、引用される数も多い。ここに研究内容が掲載されることは、銀河中の紋章科学者からすれば最高の名誉とも言えることだ。
それほどの雑誌に何か騒ぎ立てるような内容が書かれていたのだろうか? レオンはそう思い、パラっとユリウスが指を挟んでいたページの内容に目を通してみた。それは学術論文ではなく、最近の紋章科学に関するニュースを掲載しているページだった。
「えっと……ゴキブリが使用する紋章の効果はヒトの1/1000に………」
「ちがうちがーう! その下じゃ下! そこの記事をよく読め!」
「ん? あぁ、こっちですか……」
ユリウスの言う記事は、ページの右下から始まっていた。
「えぇと……地球、銀河連邦紋章科学研究所にて5月1日、ついに連邦から巨額の資金が投資されることが決定された……」
レオンはさらに読み進める。
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投資される額はおおよそ宇宙船何千隻にも及ぶほどの巨額になるとされている。なぜ今回、連邦がここまでの大型投資に踏み切ったか疑問に思う読者も多いことだろうが、現在紋章科学研究所ではある研究が非常に注目を浴びていることをご存知だろうか?
先日、この研究所で一つの成果が大旋風を巻き起こした。ブライア研究所所属、ガイエル・ウィルバー博士による「紋章による空間転移」という題目の論文である。これは物体が亜空間を通してワープすることが紋章学的に起こりうるをこと示しており、実用化できれば従来のように大型な加速装置を用いずとも宇宙船をワープ空間へ転移させることが可能となる。
そもそも紋章術とは何も無い場所に炎や冷気といったものを呼び寄せたり、あるいは重力場や肉体能力を操ったりするものである。そのため空間転移の一種であるという説がかねてより有力であったが、我々の住む実空間同士の転移は未だ確認されておらず、これら紋章術のエネルギーは亜空間もしくは平行世界から逸れたベクトルの実空間介入によるものだと考えられてきた。そして今回、ガイエル博士の理論では実空間と亜空間を部分的に連結させ、紋章エネルギーを外場から加速操作することにより、簡単に指定した場所へと物体を移動させることができるというものだった。
銀河連邦政府は現在、反連邦団体によるテロや武力行使に頭を悩ませており、新兵器開発といった意味でも速やかにこれを実用化したいという考えだ。そのために今回は資金の他に様々な研究特権が与えられることも決まっている。おおよそ100立方光年もの実験空間の提供や、1千人単位での技術者派遣をも惜しまないであろうと考えられている。
――――――――――――――――――――
雑誌には、長々とそんなことが書かれていたのだった。
「なるほどね……」
この記事の後半にはガイエルの論文の簡単な説明が書かれていたが、レオンはこれを読もうともせず、速やかにユリウス博士に雑誌を返そうとした。要するにガイエル達の言っていた紋章による空間転移の研究に、軍事的な目的で莫大な援助が連邦から下りるらしい。
「このあいだの公聴会で言っていたガイエルの研究。それがいよいよ本格化したということですか」
「本格化どころの話ではない。ここまで連邦が補助するというのも珍しい話じゃ!」
ユリウスは頭を煮えたぎらせながら、再び先ほどのページを荒々しく開いた。
一研究者としては同じ研究所から偉大な論文が発表され、しかもそれが銀河的に認められたとなれば喜ぶべき事なのだろう。だがレオンは本心を言うと、今この記事にそこまで興味が沸かなかった。
しかしユリウスからすれば、これはライバルがとてつもない成果を挙げたということである。恐らくは非常に悔しい思いでいるのであろう。
そしてその悔しさを共有しようがためにレオンを呼び、この記事を見せつけてきたのである。全くレオンからすればいい迷惑だ。
「それだけですか? 言いたいことは」
「それだけとはどういうことじゃ!?」
ユリウスは事を軽くあしらうかのようなレオンの態度が気に食わないようで、あからさまに「ふん!」と鼻を鳴らす。
「そんなことだからいつまでたってもナメられるんじゃよ。少しは悔しいとは思わんのか!?」
「……別に感じませんね。むしろ科学が進歩して喜ばしいことじゃないんですか?」
「まったくお前は捻くれた奴じゃ……」
ユリウスはぶつぶつと文句を垂れながらも、「まぁいいわ」と不機嫌そうに雑誌を畳んだ。そしてそれを半分に折ると、無理やり白衣のポケットの中に押し込めたのだった。
気まずい状況に居合わせてしまったレオンであったが、さきほどの記事の中にも少し気になる箇所があった。なぜ連邦はそこまでして転移紋章にこだわるのかという点だ。
「普通に考えれば、新しい兵器開発を連邦は急ぎたいんだと思いますよ。最近は反連邦団体の動きも活発になりつつありますし……」
そう言ってはみるものの、どうも兵器開発と紋章転移の関連性がピンとこない。現に移動スピードに関しては連邦が他を圧倒しており、これ以上の敏捷性能を求めるよりは武器そのものを強化したほうが効果はあるだろう。
「そうか……やっぱりそうじゃのう………」
ユリウスは軽く舌打ちをしてそう答えた。さっきは悔しくないのかと尋ねてきたユリウスではあるが、今は悔しそうというよりどこかしら残念そうというか、少なくともレオンにはそういったように映った。
だが、なぜ連邦が転移にこだわったのかというようなレオンの疑問に関して、彼はこれっぽっちも考えを抱いていないようだ。
「レオンよ。紋章科学とは人類に便利で快適な生活を保障するような、そういったものであってほしいと願い続けながら、わしはこの仕事を続けてきたんじゃ……」
これはユリウスから何度も聞かされてきたことだ。レオンはユリウスが誰よりも平和主義者であることを知っている。だが今回はいつもの語り口とは異なっていた。
普段なら説教がましくレオンに紋章術の平和利用を説いてくるのだが、今はそうではない。頭を抱えるユリウスの姿からは、心からの本音が出てきているようだった。
「わしは残念で仕方がないんじゃよ。こんな新兵器のために紋章科学が利用されるなんて事は……」
「そうですね……」
レオンが添えるように言葉を発した。
「所詮は僕達が作り出した技術なんて、連邦のいいようにしか利用されるしかない運命なんですよ。そのことは僕も疑問に思いますね」
レオンがこう言うのには実はわけがあった。かつて自分が所属していたラクールの紋章研究チーム。そこで開発された技術の結集“ラクールホープ”も、今でこそ魔族撃退のために使われたという、いわゆる“いい部分”だけが表に出ている。しかし元はといえば、あれの開発動機はエルリアやクロスなどといった他国牽制用であり、平和利用といった目的などは欠片もなかった。
崩壊紋章の件でもそうだったが、やはり紋章の力は平和に利用されて欲しい。このことは激動の人生を若くして送ってきたレオンも同じ意見だった。
「事態がまずい方向に進まなければいいんですけどね……」
「本当にそれじゃ。連邦も何を考えているのやら……」
「まあ僕達は僕達で、自分達の研究を進めていけばいいじゃないですか。よそはよそ、うちはうち」
「……まぁ、そうじゃな。ワシらが悩んでも何かが変わるわけではあるまいし……」
諦めに近い表情を見せていたユリウスだったが、ここで何かを思い出したようにひゅんと表情を変える。
「そ、そうじゃそうじゃ! あと10分ほどで実験サンプルデータの結果が出るのを忘れておったわい!」
そう言って慌てて腕時計を見ると、くるりと180度体の向きを変えて走り去っていった。
「レオン! 遅れるでないぞ!」
吐き捨てにそう残したユリウスにいつもなら溜め息をこぼしてしまうレオンであるが、なぜか今日は何とも思わなかった。
朝の夢といい、今の出来事といい、今日は本当に色々なことが起こるなとレオンは思い返す。
そして今日の一番大きな出来事は、これとはまた別にあった。
「ユリウスさん。悪いけどぼくはその実験解析に付き合ってられないんだよね……」
レオンは再び居室に戻ると、自分のロッカールームにそのまま向かっていった。そして荷物をまとめながら、さきほど届いた一通のメールを確認の意味でもう一度見るのだった。
「僕は僕なりに、自分の紋章術を宇宙平和のために使ってくるよ。敵を攻撃する紋章術で平和だなんて矛盾するかもしれないけれど、これが僕のやり方だから……」
バタンとロッカーを閉めると、レオンはそのまま研究所を後にしたのだった。
「みんな揃ったようだね」
クロードとレナが宇宙船“無人君act2”の中から姿を現す。大きな格納庫に集合したのは、今日この場に緊急招集された6人の仲間たちだ。
「おまえら、今回はえらい大所帯だな。なんか大きな任務でもあるのか? ん?」
無人君act2を収納しているこの格納庫の管理人、スコットもさすがに驚いたような表情をしている。前にプリシスが来たときはレオンとノエルの3人しか居なかったのが、今回はそれにチサトとクロードとレナの3人が新たに加わっているからだ。
最初にこの集合場所である宇宙船格納庫に到着したのはクロードとプリシスとレナだった。宇宙船の事前設定を入力するクロードと、機体の最終メンテナンスを担当するプリシスは、集合時間1時間ほど前から着々と準備を進めていた。
レナがその間に食料などの買出しに行ってくれたおかげで、生活必需品もばっちりだ。
「そーだよ。前みたいな緊急の用事じゃなくて、今回はちゃーんとした任務なんだからね。この宇宙船で現場まで行くことも、連邦からちゃんと認可されたんだよ。途中の星であと4人拾うことになってるし」
プリシスが整備中の機体から戻ってくると、手にしていたスパナをくるくる回しながらスコットにそう言った。重作業後の彼女は汗まみれになっており、そこからはオイルの臭いがプンプンしている。
「うわ、くっさ!」
即座にその匂いにレオンが反応した。羽織っている上着の袖で鼻を抑え、あからさまに嫌そうな表情をする。
それを見たプリシスはそんなレオンの様子に「はぁ!?」と顔を歪め、怒気を浮かべて言い返した。
「しょーがないじゃん! このあいだエクスペルに行ったんだから、あちこちメンテナンスしとかなきゃいけないんだよ! オイル臭くなるのも当然、ってかむしろこんなに体張ってるんだから、感謝ぐらいしなさいよ!」
「でも臭いものは臭いんだから、それも仕方ないよね」
レオンはそう言い残すと、ささっとプリシスから身を引いたのだった。
「な、なによー? みんなのために頑張ってるてのに……」
傍では無人君がうんうんと、どこからが首かも分からないような体で頷いている。
「もう、無人くんまで……」
ぶつくさ文句を呟きつつもプリシスはそれをひょいと拾い上げると、整備の続きを行うため再び機体へと戻っていった。その際、彼女は少しだけ自分の衣服を嗅いでみた。
「……スコットさーん、後でシャワー貸してね」
「……で、またネーデ人が姿を現したってのは本当なの? クロード?」
整備が終わるのを待っている間、チサトにそう尋ねられたクロードはうーんと唸り声をあげる。
「軍部の情報だから信憑性は高いと思うんだ。けど正直、ここまで早く奴等が姿を現すとは思えないんだよな……」
「……それは自分も同感ですね」
隣からノエルがそう口を挟んだ。
「本気だとしても、そうでなくても、イーヴとグレッグは私たちに苦戦しましたからねぇ。しばらくはじっとしていると考えるのが普通なんですが……」
どうやら、ノエルはネーデ人の出没自体に疑問を抱いているようだった。理由もなくあちこちの星に彼らが出没し始めているのは、どうも不自然なものに感じられて仕方が無いようだ。
クロードもこれほどすぐ次の任務が回ってくるとは思っていなかったが、それでも現れたものは現れたものだ。
「まぁ、行ってみないと分からないんじゃないの? ロイド・モダイ2号星に」
レナが三人の顔を眺めながら、まとめるようにそう言った。
「私も変だとは思うけど、でも百聞は一見にしかずって言うでしょ?」
「……そうね。事件は現場に行ってこそ真実が明らかになるもの……」
チサトは俯きながら静かにそう言葉を発したのだった。
「チサトさん、元気ないですね?」
「え、そ、そうかしら……?」
チサトは慌ててクロードにそう返事をすると、いつも携帯しているメモ帳とペンをさっと胸ポケットから取り出した。そしてそれをびしっとクロードの方に向けると、
「さぁ、それじゃあその真実を暴きに行くクロード少尉! 任務前にコメントをお願いします! ささ、何か一言……」
と言って、手にしたメモ帳を開いたのだった。
クロードは困ったような顔つきをして、
「ま、また取材をする気ですか!? あれほど毎回危険だって言っているのに……」
とチサトに苦言したが、それでも彼女は、
「いいえ。たとえそれがどんなに苦難の道でも、記事に情熱をかける。それがプロのプライドってものよ!」
と、さらにクロードに強く迫るのであった。
「それに十賢者のときからずーっとあんた達を取材してきているけど、私が足手まといになった事なんて一回も無かったでしょ? むしろこの間のグリエルの時なんか、私が居なければどうなっていたことか……」
「う、うーん。じゃあ……」
ここまで言われると、クロードは拒否するにできない。それにロザリスのカーツ洞窟では、チサトに大きく助けられたのも事実である。こうなったらヤケだ。そう腹を括ると、チサトのインタビューに答えるために小さく咳払いをした。
「私、クロード少尉は、連邦の一群人として絶対に犯人を捉えてきます!」
クロードはそう言うと、「こんな感じでいいですか?」と確認するようにチサトに尋ねた。彼女はノートにメモしたクロードの言葉に眉を潜めていたが、
「ま、ちょっとありきたりすぎて短いけれどギリギリ勘弁してあげるわ。次はもっと凝ったものをよろしく頼むわよ」
と、仕方なさそうにパタンとメモ帳を閉じたのだった。
「ま、待ってくださいよ。折角一言コメントしたってのに、そりゃな……」
「みんなー、無人君act2の準備できたよー!」
そんなとき、プリシスの声がドック中に響いた。
「あら、プリシスお疲れ様! それじゃあみんな出発するわよ! はやく宇宙船に乗り込みましょ!」
クロードの言葉など耳に入っていないかのよう、チサトはパンパンと手を叩いて仲間を呼び寄せた。あれだけ恥ずかしい意気込みを語ったにもかかわらず、それをあっさり流されてしまったクロードは、髪の毛を鷲掴みにしながら肩を落とすのだった。
任務以外にも思い悩む事が多そうだ。少尉というものは色々と大変だと妥協するように自分を納得させながら、クロードは皆に続いて宇宙船に乗り込むのだった。
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