翌日、朝食を済ませ身支度を整えたクロードとレナは宿屋を後にした。
幸運にもこの星の食べ物はクロード達の口に比較的合っていたようで、体調等含め任務には未だ問題らしい問題は発生していなかった。
ノエルとの話によって手がかりが掴めたこともあり、状況は少しづつ良くなってきているように思える。とりあえず次は黄色い粉に関する情報を集めたいところである。
「まずはここの村長の家を探してみよう」
疲れが取れたおかげか、爽やかそうな顔つきでクロードは提案した。昨日出会った怪しい人物、アルフレッドの家を聞き出そうと思ったからだ。
「そうね。まずはアルフレッドさんの家がどこにあるのか聞かなきゃいけないし。……でも村長の家って簡単に言うけど、どこにあるか分かるの?」
レナが辺りを見回しながらそう言った。確かに誰かの家を探すために、別の人の家を探すのもおかしな話だ。
「あそこの高台に、あからさまに他より大きな家があるだろ? あれがそうだと思うんだ」
クロードが村の中でもさらに少し小高い場所にある、一回り大きな赤い屋根の屋敷を指差した。
「確かに、それらしい家ね……」
「まぁ仮に単なる金持ちの家だとしても、大体この時代の金持ちって地主とかが多いし、そういう人でもこれくらい狭い村なら住人について詳しかったりするしね。まだ決まったわけではないけれど、とりあえず行ってみよう!」
しばらくして、クロード達は目的の家についた。立派な門に、植木が整えられた庭。さらにこの村では珍しい二階建てという、どう考えても身分の高い人物の屋敷である。
「ほんと、立派な家ねぇ……」
レナはそれを見て、かつてエクスペルのハーリーにあったザンド一味の屋敷を思い出した。あそこほど趣味の悪い体裁は為していないものの、規模的には近いものがある。
「見慣れない顔じゃが、何か御用ですかな?」
「わっ!?」
突然、二人の背後から声がかけられる。クロードとレナは思わず肩をすくめ上げ、奇声とともに後ろを振り返った。
そこには背が低くてごうごうと口ひげを蓄えた、年老いた男が背後に立っていた。レナたちのことを怪しげな眼でじろじろと見ている。
「お、おはようございます。あなたはこの村の長の方ですか?」
1、2歩後ろに体を引いたレナが、慌ててそう聞き返した。
「左様。儂がこのネステードの村長、ゴロンボじゃ。お主達、見たところこの村の住人では無いようじゃが?」
「あ、はい、そうなんです。僕たち二人は世界を旅していまして……」
「怪しい者じゃないです、安心してください!」
クロードは違和感なく説明しようとしたが、一方でレナの受け答えはどうにも胡散臭さがぷんぷんする物の言い回しだった。出身地や旅経路等の余計な質問をされないか、クロード内心冷や冷やする。
だがそんなクロード達を旅人として認めてくれたのか、ゴロンボは表情を緩め、クロードたちに握手を求めてきたのだった。
「ほぉ、それはそれは、よくぞ来てくださいました。旅路の途中、ブーシーたちに襲われませんでしたかな?」
そんな歓迎ムードのゴロンボを見て、クロードはほっと胸を撫で下ろす。
「ええ、仰られるとおり、この村に向かう途中でブーシーに襲われまして……。ただその際、この村の学者のアルフレッドという方に助けてもらったんです。どうしてもそのお礼をしたくて……」
「そうなんです。アルフレッドさんに会いたいので、家の場所を教えて頂けないでしょうか?」
クロードの話を遮るよう、レナがさりげなくアルフレッドの居場所をゴロンボに尋ねた。
村長なら必ず居場所を知っているであろう。そのため、答えはすぐに返ってくるに違いないとレナは思っていた。しかしこの直後に二人が耳にしたのは、まったくもって驚くべき返事なのであった。
「アルフレッド? はて、そんな名前の人間はこの村には居らんぞ?」
「え、なんだって!?」
クロードにとっては「まさか!!」というような、しかし少し予想もしていた事だった。
「あの……本当に知らないんですか?」
念を押すかのようにレナがもう一度、首をかしげるゴロンボに尋ねた。
「うむ。儂はこの村の全住人を把握しとるからの、間違いないはずじゃ。……ん? そういえば……」
言い終わりかけたとき、ゴロンボは何かを思い出したように視線の向きを変えた。その様子を見たクロードとレナは
「何か心当たりがありますか!?」
「何でもいいです!」
と、咄嗟に強い口調で聞き返した。
「うむ。つい2週間ほど前から、西出口の付近に馬車を停めて滞在しとる奴がおっての。そやつの名が確かそんな名前じゃった気が……。ほれ、ちょうどあっちのほうじゃ」
ゴロンボはその方向を指差しながらそう答えた。
(西出口? 確か僕達は東からこの村に来た事になるから、昨日の入り口とは逆の方向か……)
クロードが思考を巡らす。
「えっと、それはどんな馬車でしたか?」
レナがさらにゴロンボに尋ねる。
「おお。結構大きい馬車が2台ほどあったぞ。まだ居ると思うから見てきたらどうじゃ?」
ううんと唸りながらゴロンボがそれに答えた。
「……分かりました、今から行ってみることにします。どうもありがとうございました」
そう言いお辞儀をするや否や、クロードはくるりと振り向き走り出す。
「レナ、行くよ。急ごう!!」
クロードは振り返りざまにレナへ叫ぶ。その様子は今までと打って変わり、かなり焦りをはらんでいる。一刻の猶予も無いといった顔つきだ。
「えっ? 待ってクロード! ……あ、ゴロンボさん。ありがとうございました!」
レナも軽くお礼をし、クロードの名を叫びながら慌てふためいた様子で彼を追いかけていった。
「お、おお。気をつけてな……」
ゴロンボは呆然と2人を見送る。果たして彼の眼に二人はどう映ったのだろうか。とりあえず忙しそうな旅の若者二人だと認識されたことは間違いないだろう。
「さて、それじゃお茶にでもするかのう……」
今日は朝から騒がしいのうと呟きながら、ゴロンボはゆっくりと屋敷の中へ帰って行くのだった。
「クロードー! 待ってー!」
「レナ! 急いで!」
2人は村の中を駆け抜けていく。大通りはまだ石舗装さえもされていないので、靴が砂で滑って走りづらい。ザッザッと擦れるような音を速いテンポで響かせながら、二人は全速力で走った。
目指すは村長のゴロンボに言われた、アルフレッドの馬車がある西出口だ。
(くそっ、そういう事だったのか。頼む、間に合ってくれ……)
間違いなくアルフレッドはクロだ。黄色い粉といった惑星外の技術に加え、もともとここの住人ではないという事実。どう考えてもロザリスに侵入してきたよそ者である。
この星で何を企んでいるのかはまだ分からないが、早急に彼の元に行かなければならない。
「はぁ、はぁ……」
そして西出口に到着したクロードは両手をひざの上につき、その状況を目の当たりにした。
「くそっ! 遅かったか……」
馬車の姿は既にその場には無かった。クロードは拳を握りしめ、舌打ちをして膝を降ろす。そんなクロードの元に、レナが後ろから息を切らしてやって来た。
「はあっ、はあっ……クロードったら早すぎよ!」
レナも相当息苦しそうだ。やはり男と女の体力差は歴然であり、全力で走ってもクロードには追いつけないらしい。
「……どうやら逃がしてしまったみたいだ」
クロードは近くにある地面を指差した。乾いた地道に車輪の後がいくつも付いている。馬車がこの場を立ち去った証拠だ。それを見たレナも事態を理解し、彼女もまた悔しそうにその場に座り込んだのだった。
「アルフレッドがやっぱり侵入者だよ」
「そうみたいね……」
ここまでの経緯でアルフレッドが悪者だと、クロードとレナは双方気付いたのだった。
「たぶん、ブーシーの密猟ね。ノエルさんが言ってたもの。仲間に危害が及んでいるから、ブーシーは暴れているって」
「ああ。恐らくあいつは僕たちがこの星の人間でないことに気がついたんだ。だから密猟をやめて撤収したってところだろうね」
「今から思えば昨日、あんなに朝早くからアルフレッドが山道を徘徊していた段階でおかしいと気づくべきだったわ……」
「……その通りだけど、まぁ仕方ないね」
クロードは少し落ち着いた様子で話し出した。
「僕らが連邦の人間だということをアルフレッドはどうして気付いたのか、それが分からないけど……」
「そう言えば、服装もこの惑星に合わせているのにね」
「……もしかしたら、昨日宿屋で惑星間通信をしたのがまずかったのかな?」
「あ、あの通信機……」
二人はふと昨夜のことを思い返した。
「あの通信機器は意外と強力な量子波を出すからね。もしかしたらそれを拾われたのかもしれないよ」
クロードはしてやられたというような口調で続ける。
「恐らく奴らは、自分たちの星で作ったあの黄色い粉でブーシー達を一旦落ち着かせてから狩りをしていたんだ。僕たちと出会ったときは善人ぶってブーシーをなだめて、僕たちを送り届けた後で狩りに戻ったんだろうね」
「私たちをわざわざ村に案内したのは、他人がいると狩りに都合が悪いからだったのね」
「ああ。そして奴は昨晩、僕たちの通信機から流れ出た量子波をキャッチしたんだ。テレビ電話形式での通信だったから、拾った量子波には当然僕の顔も映し出されていたのさ。それで気がついたんだろうね。僕が連邦の軍人で、未開惑星保護条約違反の取り締まりに来たんだってことを」
「そしてそのまま逃げだして、私たちはまんまと彼を取り逃がした、ってことなのね……」
ここでレナははっと息を吸い込む。
「あっ、そういえば!」
「ん、何か気がついた?」
「うん。昨日の夜のことなんだけど……窓の外を見てたとき、パーンって銃声のような音がしたの。あの時は何か空耳だと思っていたんだけど……」
「そうか……」
クロードは手で口を覆い込む。何か考えている時の彼のクセだ。
「それもアルフレッドの猟銃の音だったんだろうね」
「ごめんなさいクロード。気づいたときにすぐに言えば、昨日のうちにここで馬車を見つけることができたかもしれないのに……」
レナはしゅんと頭を垂れ、クロードにそう言った。
「いいよいいよ。普通ならこんな所に銃があるなんて思わないしね。それに過ぎ去った事を悔やんでも仕方ないよ」
クロードはレナの背中をぽんぽんと叩き、頭を撫でる。
「僕こそ、急に走り出しちゃったりしてごめんね……」
「そんな、全然大丈夫よ。あれくらいでヘコたれているようじゃ、任務の遂行なんかできないわ」
レナは頬をはにかませて返事をした。
「私がんばる! がんばってアルフレッドを追いかけるわ!」
「ああ! 絶対に捕まえよう!」
クロードはそう言ってレナの手をぎゅっと握る。レナもそれに応えるようにすっと立ち上がるのだった。
「でも次からは気をつけて、少し加減して走るよ」
「……ありがとう」
そう言って、二人は互いの顔を見合いながら微笑むのであった。
「さて、これからのことだけど……」
「え? 今すぐ追いかけるんじゃないの?」
クロードは今すぐにでも村を出んとするレナを呼び止めた。
「その前に、実は忘れていたことがあるんだ」
「忘れていたこと?」
「ああ」
それを聞いたレナは首をかしげた。
「よくよく考えてみれば、そんなに急ぐ必要はないかもしれないってことさ」
「へ? なんだかさっきと言っていることが違うような気がするんだけど……?」
「ごめんごめん。まぁ聞いてくれよ」
レナが少し疑わしげにクロードに聞き返す。一方のクロードには慌てた様子は無く、先ほどまでとはうって変わり大いに落ち着いていた。
「アルフレッドはあんなに重そうなブーシーを馬車に乗せているんだろ? ならそうそうスピードは出せないと思うんだ」
ブーシーはクロードの目測で、最低でも1トンはありそうなくらいの巨体だ。物理の法則によれば、物体は重くなるほど加速しにくくなる。
つまり、何匹ものブーシーを積んだ馬車が猛スピードでこの場を離れて行ったとは考えづらいのだ。
「それに、この道がどこに続いているかさっぱり分からないだろ? だから一旦街に戻って、この大陸の地図を買おうと思うんだ」
「あ、そう言えば昨日地図を買いそびれたわね……」
「そうなんだよ。本当は昨日聞き込みをした雑貨屋で地図を見つけたときに買おうと思ったんだけど、うっかり忘れちゃって……」
確かに、どこに続くか分からない道を無鉄砲に進む訳にはいかない。下手すればこちらが迷子にもなりかねず、かえって時間のロスに繋がる可能性だってある。この近辺の地理情報は必須。急がば回れとはこのことである。
「昨日立ち寄った雑貨屋さんね? なら場所覚えてるわ、行きましょ!」
レナはそう言って村の繁華街のほうを指差すと、クロードに早く来てと手招きをした。やけに張り切っている様子であり、いきなり気合いが入ったなんだなぁとクロードは不思議に思いつつもそんな彼女の後をついていくのだった。
「安いよ安いよー! 今朝取れたての野菜だよー!」
「うちの鶏肉は絶品だよー。是非とも買ってっておくれー」
村の繁華街では、朝日の下でベルを鳴らしながら客を呼び込もうと大声で宣伝する露店がびっしりと並んでいる。ブーシー騒動で村の活気が落ちていると話に聞いていたが、中心街はまだまだ威勢の良さを残しているように見えた。
地球ではこういう活気が残っている店は少なくなっていた。大概は広告も電子化され、チェーン店ではアルバイトがマニュアルに沿った受け答えで対応をしている。
クロードとレナは商人魂のようなものを目の当たりにし、その気迫に圧倒されるのであった。
「……あっ、ここよ。ここ!」
レナはその通り沿いにぶら下げられた、一軒の道具屋の看板を指差した。木を彫って赤色に着色されたその看板には、大きな黄色の文字で「雑貨屋・ポピィの店」と書かれていた。
店先にはマグカップや蝋燭など様々な日用品から、ヤジロベエや書物などおもちゃ・娯楽品に至るまで、ありとあらゆる商品が所狭しと並べられている。二人はいそいそとその店の奥へ進んでいくのだった。
「いらっしゃ……おお、昨日の兄ちゃん姉ちゃんじゃねえか!?」
クロードとレナは店内にて、商品棚の整理を黙々と続けていた大柄の男の目に止められ、陽気な声をかけられた。昨日聞き込みをした、ちょび鬚でガタイの良いこの店の主、ポピィだった。
クロード達の姿を見るやいなや、彼は目を輝かせながら二人を迎え入れる。
「もしや、昨日気になったもんを買いに来たとかかい?」
「いや、まぁ……」
「なーに、ケチケチすんなって! 彼女に何かプレゼントしてやれよ!」
それを聞いたクロードとレナは互いに顔を見合わせて苦笑いをした。
「えっと……私たちはこの近くの地図を探していて……」
レナは恥ずかしそうにポピィにそう伝える。
「お、そうかい! てっきり彼氏がお嬢ちゃんの後をトコトコついてきたもんだから、これから何か買わせるつもりなのかと思っちまったぜ! がはははは!」
ポピィは豪快に笑いながらそう答えた。低くて部屋全体に響き渡るようなその笑い声で、店内に置いてある小さなコップなどがカタカタと音をたてて揺れる。
「ちょいと待っててくれや」
そしてそう一言言い残すと、ポピィは鼻歌交じりにずかずかと店の奥へと消えていったのだった。
なんて陽気で豪傑な人だ。こりゃ押し売りでもされたらひとたまりもないだろうな。彼が去ってからしばらくの間クロードがそんなことを思いながらぼうっと店の奥を眺めていると、
「ねぇクロード、これ見て!」
突然、レナがクロードを呼ぶ声がしたのだった。
「プリシス達のお土産に、これなんかどうかしら?」
レナははしゃぎながら、棚の上に並べてあったブーシーの木細工の置物を手にとって眺めていた。拳小くらいの大きさの、燻し樫の素材が生きたなかなかの一品だ。
それほど手の込まれた品物では無いが、ほどほどに可愛い雰囲気がでている。男同士の場合はお土産といえば食べ物一択なのだが、女の子ならこういった小物を欲しがるものなのだろう。
「ほんとだ。なんだか可愛いね」
クロードも棚に並べられたブーシーのうちの1つを手に取ってみた。キラキラ目玉にカールした尻尾。昨日出会ったやつに比べるとかなり美化されているような気がしなくもない。
「でしょでしょ? ねぇ、せっかくだし買って行きましょうよ?」
レナが駄々をこねるように言った。そんな彼女の手中には、既にお気に入りのブーシーがいくつか選ばれている。
「そうだね。今回は結局ブーシーが事件に絡んだわけだし、買っていこうか」
あまりにも嬉々としてこの置物に魅入るレナを見ていると、クロードとしてもさすがに断りづらい。レナの言われるがまま、ブーシー選びに参加させられる羽目になったのであった。
「おーい、お二人さん。あったぜ。地図ってこれのことだろ?」
ここでポピィが何やら折り畳まれた紙を持って店の奥から戻ってきた。
「あ、それです!」
この周辺の地図ならどんな物でもよかったので、クロードは適当に返事をした。
「おっしゃ。それじゃあ地図一つで400カネーにな……」
「すいません! これもお願いします!」
レナは慌ててポピィがいるレジカウンターに近寄ると、抱え込んでいたブーシーの置物たちをごろごろと彼の眼の前に置いた。
それを見たポピィは手を揉みながら、
「おーっ、まいどありーーっ!!」
と、これまた店内に響き渡る声で叫び、ぺろりと舌を出しながら値段の勘定をはじめたのであった。
結局クロード達は、地図に加えてブーシーの木細工を自分たちの分、それにプリシス、レオン、チサト、ノエル、イリアの7人分を買ったのだった。ノエルのブーシーだけは、世話になったという感謝の意を込めて大きめサイズだ。動物好きの彼ならさぞ喜ぶであろう。
「ありがとうございました」
店の出際、クロードがポピィと握手を交わす。
「おう。またこの村に来たときは、是非とも顔を出してくれよ!」
ポピィは満面の笑みでクロードの手をがっちりと握り返した。レナも同様にポピィと別れの挨拶を済ますと、二人は店を後にするのだった。
ポピィはこっちの姿が見えなくなるまで延々と手を振り続けていた。恐らくこの彼の人柄が店の繁盛に繋がっているのだろう。
「ええと、この道を行くと……」
再び村の西出口に戻ったクロードは地図を広げ、そこに記されている道筋を指でなぞった。
「あの丘の向こうに港町ケロックがあるみたいだね。しかもここから5〜6キロくらいのところに」
「えぇっ、そんな近くに港町があったの!?」
レナが驚いたように返事をする。
「ああ、あの丘の向こうは海らしいよ」
クロードはアルフレッドが逃げた方向を指さした。芝が生い茂るなだらかな丘へと道が続いている。地図によるとその先には海が広がっており、それと隣り合うように港町ケロックという町があるらしい。
「まずいな。港町ともなれば海から逃げられる恐れがあるぞ」
港から出る貨物船で脱出されたら、それこそ追跡が難しくなる。そういった事態は何としてでも食い止めたいところだ。
「けどブーシーなんか船に積んだら、船員とかに絶対見つかる気がするんだけれど?」
「多分、アルフレッドは既にここでブーシー達を木製のコンテナのような物に入れて輸送してると思うよ。防腐剤か何かと一緒にね」
ブーシーの死体をそのまま村のどこかに置いていたら、見られなくとも臭いで村人にバレてしまう。隠すときには防腐剤が必須だろう。
「それに、あいつは今までに何回か往復輸送してると思うんだ。2週間もここに居続けて、ブーシーの収穫が馬車2台分だなんて絶対に少なすぎるしね」
「ちょっと待って。彼が私たちの正体に気が付いているってことは……?」
「ああ、これが奴等を捕まえる最初で最後のチャンスだ。行こう!」
これで行き先は決まった。他に目立った街が見当たらない以上、港町ケロックをアルフレッドは何かしらの中継地に選ぶだろう。
銀河連邦に手配されている状況下、彼らはこのまま逃げ一辺倒になることは間違いない。海路に出て行先をあやふやにされないうちに捕まえる必要がある。
「ここからならケロックまで2時間もかからなさそうね、急ぎましょう!」
「ああ!」
2人はそう言うとすぐさま駆け出すのだった。ブーシーを載せた、未開惑星保護条約違反者を捕まえるために……