68.第五章 第十六話




 惑星ロイド・モダイ二号星で始まったフーラル、キーサイド両大国間の戦争。現在のところノースフォールの門で小競り合いが行われている程度ではあるものの、ヘイデン王子の言葉から察するに戦いがここだけで済むとは考えられなかった。

 湖の手前に陣地を構えるフーラル軍と、ノースフォールの門から湧き出してくるキーサイド軍。その両軍は湖と砦の間に広がる裾野で激突し、今もなお激しい戦いが続けられていた。

「ぐわぁぁーーーーーーっ!!」
「貴様! よくも我が国に攻め入ってくれたな!?」

 偶然にもフーラル、キーサイド両軍共に侵攻の途中だったため、そのことがさらに戦火へ油を注ぐ形となった。

 相手国に攻めこむ前提でここまで出向いた兵士たちなのである。その士気は極めて高く感じられ、剣と剣がぶつかり合う音以外にも咆哮や掛け声があちこちから聞こえていた。

 そしてそんな状況を、クロードたちは現場より少し離れた滝の影からじっと見つめていた。

 戦いが始まるまでの間、混乱に乗じて何とか一行はここに見を潜めることができた。しかし油断は一切できない。戦火が拡大していけば、ここがいつ戦場になってもおかしくないからだ。

「大変なことになりましたわね………」

 目の前の光景に、セリーヌが口を抑えながらぽつりとそう呟く。その隣ではクロードとレナも同じように戦況を見守っていた。

「そうだね……」
「まさか、こんなことになるとは思いもしなかったわ……」

 そう言うレナの表情には、なにか罪悪感のようなものが浮かび上がっていた。それもそのはずである。

「私達がキーサイド王国の兵士たちを呼んだようなものだもの……」

 もともと平和だったこの国境に、突如として異変が訪れたのは自分たちの存在が原因だった。検問に引っかかっている途中、キーサイド王国の大軍が自分たちを逮捕しに押しかけてきた。それから逃げようとした結果、彼らをフーラル共和国に招き入れる結果を産んでしまったのだ。

「そんなことはないよ、レナ」
「クロード………」
「遅かれ早かれ、いずれ戦争にはなっていたさ。ヘイデン王子が言っていただろ? ミント姫を攫った復讐のために宣戦布告するって……」

 クロードはそんなレナを気遣うように声をかけた。確かにフーラル軍はキーサイド王国が侵攻してくる前からあの場所に陣地を構えていたのだ。自分たちが関係なくとも、どのみちこの両国は一触即発だったことに間違いはないだろう。

「……けど、この戦争にはおかしいことがいっぱいあるよ………」

 ここで今まで考え込んでいたレオンがぱっと口を開き、この状況に関する不可解な点を述べ始めた。

「まず、なんでキーサイド軍は僕達がミント姫を誘拐した犯人だと決めつけてきたのか。あの事件はどう見ても単独犯だったのに、どうして僕達に濡れ衣が被さったのか、その経緯を知りたいね」
「……そういえば!」

 この話を聞いたクロードは、ここであることを思い出す。

「ノースフォールの門の衛兵は「クロードさんですね?」って尋ねてきた。どうして彼は僕の名前を……」
「そうそう、それも変なんだよ。明らかにキーサイド王国の人たちは僕らのことを知っているんだ。まだ一回もキーサイド王国に行ったことのない、僕達のことをね……」
「………もしかしたら、さっき戦ったあの男が仕組んだのか?」

 クロードはセリーヌの紋章術を封じた男を頭に浮かべた。あのとき突然現れ、そして自分たちから“ネーデ人”という単語を聞くやいなや姿を消した、あの男である。

「……変なのはキーサイド王国側だけではありませんわ」

 ここでセリーヌが口を挟んだ。

「フーラル共和国がこれほどの大軍を率いて宣戦布告するなんて、お姫様を攫われた報復にしてはやりすぎな気もしますわ」
「そうよね。そもそもミント姫ってキーサイド王国の人なんだし……」

 セリーヌに続いて述べられたレナの言葉にもある通り、ミント姫はフーラルの人間ではない。つまりフーラル共和国側からしてみれば、別に身内の親族が誘拐されただとか、そういった事情があるわけでもないのだ。

「しかも、今回の誘拐がまるでキーサイド王国の陰謀と決めつけたような物言いだったもの。あれって絶対変だわ……」
「そういえば何かあの王子、変な名前をほざいていたよな? なんだったか……」
「ええと……」

 ボーマンとレナはそう言って必死で頭を捻らせた。不審な人物の名を思い出すために。

「……ラム。ヘイデン王子が言っていたのはそんな名前だったよ」

 レオンはそう呟いた。

「ヘイデン王子はキーサイドの軍隊に向けて、「ラム! 裏切ったな!」って大声で叫んでいた。これはいったい、どういうことなんだろうね……?」
「ラム、か……。キーサイド王国にいるその人物が、事件に何か関係あるのかもしれないね……」

 クロードたちにとって聞いたこともない名前。ラムという人物がヘイデン王子とどういう関係にあるのかは分からないが、今回の戦争はこの二人が重要な鍵を握っていると一同は考えた。

「とにかく未開惑星保護条約を遵守しなくちゃいけないから、僕たちはあの戦争に介入できない。ここは今起こっている事態を正しく把握するため、一旦みんなと通信して情報を整理しよう」

 クロードは話を整理しながら皆にそう言った。自分たちにできることは、今のところそれぐらいしかない。先進惑星の人間が未開惑星で勃発した戦いに関与してはいけないからだ。

「そうだね。とりあえず、ディアスとアシュトンに今の状況を伝えよう。まだこの戦争のことも知らないだろうしさ……」
「ああ。レオン、さっそく通信をつないでくれ」

 クロードは通信機を所持するレオンにそう頼んだ。

「うん、わかった」

 クロード一行のなかで、いつの間にか通信係になっていたレオン。不服なこととはいえ本人にもその自覚はあるらしく、今やレオンはクロードの指令に対して何の文句も垂れることなく通信機を鞄から取り出すようになっていたのだった。





『どうした、クロード?』

 まずはじめに、現在キーサイド王国で活動しているディアスとチサトに向けてクロードは連絡を送ってみる。すると彼らからの応答はほとんど待つことなく返ってきた。

「ああ、ディアス。突然ごめんよ。そっちの状況が知りたくて」
『状況、か…………』

 少し無音の時間が空く。

『……まぁ、実はあれからいろいろと大変だった…………』
「へ、いろいろ……?」
『ああ…………』
「……ディアス?」

 今のディアスの言葉遣いや口調からは、普段感じられるような威圧感が憶えられない。そのことに気がついたクロードは不思議に思った。

『……すまない、クロード』

 さらにディアスはそんな言葉を述べた。通信機のスピーカーからそれを聞いた一同は揃って首をかしげる。なぜ彼はここまで下手に出るのだろうか。

「えっ? すまないって、どういうことだい?」
『クロード。お前たちのところにキーサイド兵が向かってきたのだろう?』
「……なっ!? どうしてディアスはそれを………?」

 クロードは驚いた。なぜディアスは自分たちがキーサイド軍に襲撃されたことを知っているのか。

『……一昨日、俺たちがハルマに到着した翌朝、巨大な犬型の魔獣に街が襲撃された。そいつは俺たちが軽く片付けたんだが、そのせいでキーサイド国軍のほうから目をつけられてしまってな。昨日は丸一日、チサトと二人して牢獄に捕まってしまった。そこで俺たちはお前らがミント姫誘拐の犯人だと嘘をつき、その居場所を教える交換条件で牢屋から解放してもらったんだが……』
「……ちょ、ちょっと待ってくれ………」

 こんなに一度に情報を並べられると、さすがのクロードでも混乱してしまう。ここは一旦間を置くべく、クロードはディアスに向けてそう言った。

「えっと、つまり昨日、ディアスとチサトはキーサイド王国に捕まって……」
『ああ……』
「そしてそっちの軍隊に、僕達のことを喋ったってこと?」
『ああ、そういうことだ。すまない、お前たちの実力なら兵士くらい問題ないと思っていたのだが………』

 ディアスの声が少し細くなる。先ほどディアスから感じられた違和感はこれが原因だったのかとクロードは納得した。

「なるほど、わかったよ……」
『…………このタイミングで連絡してきたということは、キーサイド兵に狙われたのか?』
「……さっきノースフォールの門で検問を受けていたら、いきなり国境の向こうから襲われてしまってね」
『……そうか』

 完全に把握しきれていないものの、クロードは今まで感じていた疑問の一部が解消された気がした。自分たちが国境で突然襲撃された理由、およびキーサイド兵たちがクロードたちの名前を知っていた理由。それはどうやらディアスたちが自分たちを“ミント姫の誘拐犯”として垂れ込んだからということだ。

 昨日チサトから届いた片言の通信も、彼らが向こうで捕まっていた際に行われたものなのだろうとクロードは思った。あのとき自分たちはノースフォールの門に宿泊すると伝えたが、そのおかげでキーサイド兵たちはこの場所を襲撃対象として定めることができたのだろう。そう考えればこれまでの出来事も辻褄が合う。

『その様子だと、無事にやり過ごせたみたいだな………』
「……まぁ、僕たちは大丈夫さ。けどそのかわり、ノースフォールの門が大変なことになってしまって…………」
『……大変なこと? どういうことだ?』
「それが………」

 様子からしてどうやらディアスは、ここで勃発している事態をまだ知らないようだった。

「戦争が始まっちゃったんだ」
『……な、なんだと!? 戦争って……』

 放たれた大きな声。そこからはディアスの動揺がひしひしとクロードたちに伝わってくる。

「キーサイドの兵士が襲ってきたとき、僕たちは必死にフーラル王国方面に逃げたんだ。そしたら既にヘイデン王子が大軍を率いてこの国境に……」
『ちょ、ちょっと待て。ヘイデンとは確か、あの結婚式の婿だったな?』
「そう。彼は“ミント姫を攫った報復”っていう理由でキーサイド王国に宣戦布告したんだよ」
『そんな、滅茶苦茶ではないか………』

 いま国境で起こっている争いについてクロードから聞かされたディアスは、唖然としたようにそう返事をした。

「うん。正直なところ、誘拐にしても戦争にしても、不自然なことが急に起こりすぎている。この星でね………」
『間違いないな。あの野郎めが……』

 ディアスがこのような態度を取るのも無理はない。ここロイド・モダイ二号星は急激に混乱に陥り、平和が乱されているのだ。そしてそれはセリーヌの紋章術を封印した男の仕業だと、おそらく彼は考えているのだろう。

「……話は変わるけど、ディアスは“ラム”っていう人を知っているかい?」

 そしてクロードには、もう一つディアスに聞かなければいけないことがあった。

『……ラム、か。そいつはキーサイドの軍師。俺たちを捕まえ、そしてお前たちに軍隊を差し向けた張本人だ………』
「なるほどね。そういうことだったんだ………」

 ディアスの身に起こったことを聞かされたクロードにとって予想通りの返事だった。ラムという人物はおそらくキーサイド軍の重要人物だろうとクロードは思っていたが、それはどうやら間違いないらしい。

「ヘイデン王子はラムの名前を叫んでいた。「裏切ったな!」って言いながらね」
『………裏切った……………?』
「うん、そうなんだよ………」
『……それはよく分からんな…………』

 クロードたちと同様、どうやらディアスも全く同じことを疑問に思ったようだった。

『ラムはキーサイド王国の軍師だ。隣国の王子であるヘイデン王子と親交があっても不思議ではないが、そこに因縁があるというのか………』
「うん、そうかもしれない」
『しかし、あの男がヘイデンから恨みを買うことなど想定がつかん。俺たちも昨日ラムと話したが、嫌味な奴ながらもミント姫の捜索には必死だったぞ』
「へぇ、ディアスからはそういう風に見えたんだ」
『まあ、それもほんの数時間の話だ。裏で何を企んでいることか……』

 実際にラムを目にしたディアスからすると、好々爺ではないものの戦争を手招きするような感じでもなかったらしい。

「これはラムとヘイデンの二人について、もう少し色々と調べてみる必要がありそうだね。おそらく前々から何か陰謀があった可能性が高いよ」
『……そうだな。俺もそう思う』

 話をまとめる。この突発的な戦争はディアスとチサトの言い逃れが引き金になったものの、両者の周到な準備、および戦争への関与度合いからして、その重要人物であるラムとヘイデンに何か手がかりがあると考えるのが妥当だということだ。

 クロードとディアスは互いにこの考えが一致した。今後の行動目標として挙げられるのは、“ミント姫の捜索”“セリーヌの紋章術を封じた謎の男を追う”“ネーデ人を探す”“ラムとヘイデンの関係を調べる”の4つだ。

「とりあえず、ディアスは今どこにいる?」
『俺か? 俺はチサトと一緒に街を襲った魔獣の足あとを追って、さらに北へと向かっている』
「……なるほど。確かにそれもちょっと怪しいね」

 誘拐や戦争の影に隠れがちだが、この平和な星で街を襲うような魔獣がいきなり現れたということも不自然である。謎の男、もしくはネーデ人と何か関係があるのかもしれない。

「それじゃあディアスとチサトは引き続き、魔獣の足あとを追いかけてくれ。僕たちは戦争のスキにキーサイド王国へと入って、ミント姫を探しながらラムについて調査してみるよ」
『ああ。気をつけろよ、この国はきな臭い。ここではミント姫の誘拐が民衆に一切知らされていない。おそらく今回の戦争についても同じだろう』
「情報統制か。国家ぐるみで何か企んでるのかもね」
『そういうことだ』
「わかった、お互い気を抜かないようにしよう」
『もちろんだ』

 クロードとディアスはそう言って互いに気を引き締めなおす。

「それじゃ、また何かあったら連絡してくれ」
『承知した。それじゃあそろそろ連絡を切るぞ』
「うん、それじゃあ………」

 連絡の切り際は作戦会議のときに比べるとあっさりしていたが、大切なことは互いに確認できた。ディアスたちはこれからも最前線を進むことになりそうである。そして自分たちも遅れを取らないよう、できるだけ急いでキーサイド王国に侵入しなければならない。

「さて、と。あとはアシュトンたちだね………」

 ディアスとの通信を終えたクロードはそう言うと、長く喋り過ぎて乾いた口を潤すべく水筒に口をつけたのだった。





 少し休憩した後、クロードは続いてアシュトンに連絡をとった。彼もディアスと同じく、こちらの連絡にはすぐに応答をよこしてくれた。

『もしもーし……』
「あ、アシュトンかい?」
『うん、そうだよ………』

 そんな返事が聞こえると、ガサガサという音が聞こえて声の主が変わる。

『はーい、クロード!』
「あれ、プリシス?」
『うん。とりあえずこっちはあたしが仕切ってるから、連絡もあたしが聞いてあげる♪』

 明朗快活な声がする。ジルハルトに残った三人組は、いつの間にか彼女が指揮をとって行動するようになっているらしかった。

『で、どうしたの?』
「うん、実はね……」

 ここでは詳細を割愛するが、クロードはディアスに伝えたことと同様のことをプリシスらに述べた。戦争が起こったこと、ラムとヘイデンが怪しいことなどだ。

 それを聞いている間、プリシスは「ほー」「へー」と相槌を返すだけだったが、やがてクロードの話が全て終わると彼女はこんなことを言った。

『なるほどねー。どおりでこっちには兵士が少ないわけだ』

 やはりプリシスは街の外に出ていないこともあり、彼女の感想はあくまでジルハルトからの視点によるものだった。

「へー。街で見張りをしていた兵士たちも、結構姿を消している感じかい?」
『うーん。たぶん』
「へ? “たぶん”って、プリシスたちはジルハルトの街に居るんだろ?」
『いやー、実はあたしたち3人、いま城の中に潜入しているんだよねー』

 だがここで、思いもがけない言葉がプリシスの口から飛び出してきたのだった。慌ててクロードは聞き返す。

「えっ!? し、城って………」
『だってちょっと前にクロード、「ミント姫の秘密について探ってくれ」って言ってたじゃん? 無人くんにモールを使ってもらって、頑張って地下から忍び込んだんだから!』

 そう言えばセリーヌの紋章術が封印されたとき、プリシス達にミント姫の調査を依頼したなとクロードは思い出した。ミント姫に何か秘密があるからこそ誘拐されたんじゃないかという仮説の根拠を求めてのことだ。

「そ、そういえばそうだったね……」
『もぉー、クロードったらしっかりしてよね!』
「あはは、ごめんごめん………」

 クロードは舌を出しながら通信機の向こうのプリシスに謝った。

「けど、それならそんなに大声で通信して大丈夫なのかい?」
『うん、それなら全然だいじょうぶ!』

 プリシスはやけに自信ありげにそう答えた。

『お城からはちょっと離れた、誰もいない倉庫に隠れながら話してるから!』
「へー、そうなんだ」

 一応、プリシスたちも慎重に仕事をしてくれているようだった。

『で、あたし達はミント姫だけじゃなく、ヘイデン王子についても調べろっていうこと?』
「うん。今ヘイデンはノースフォールの門に居るから、城を留守にしているはずなんだ。このスキになんとか噂話だけでも聞けたりしないかな……?」
『おっけーおっけー、やってみる!』

 何か文句を言われるかと思いきや、そんな気の良い返事がプリシスからは返ってきた。

「頼むよ。あとできれば、王様の様子も見てくれると助かる」
『へ、王様……?』
「ああ………」

 クロードはプリシスたちに、ディアスには話さなかった疑問点を伝えることにした。

「これだけの軍隊を送ったのはヘイデンだけれども、彼はまだ王位についたわけではないよね。こんなことは間違いなく王様が止めるに違いないのに、どうしてヘイデンはこんな暴挙を起こすことができたのか。それも不思議に思っていたんだ」

 なぜヘイデンは単独でここまで大規模な軍隊動員を起こすことができたのか。おそらくジルハルト城内で何か不穏なことが起こっている可能性が高いとクロードは考えていた。

『うーん、たしかにねー。肝心の王様はぼーっとしていたのかな?』
「どうだろね。まぁ、それに関しても何か分かったら連絡してほしい。とにかく今は分からないことだらけなんだ」

 いろいろな事件が複雑に絡み合っているが、今はなんとか一つでも多くの情報を手に入れていかなければならない。何がなんでも情報収集。それが3つに別れた部隊に与えられた任務だ。

『わかった! こっちもできるだけ頑張ってみる』

 プリシスは任せろと言わんばかりにそう返事をしてきた。彼女の顔さえ見えなければ、その言葉もクロードには頼もしく聞こえる。

「ああ、頼むよ。僕たちも急いでキーサイド王国に入るから」
『うん。お互い諦めないようにいこうね! そんじゃ!』

 こうしてプリシスのほうから通信はプツリと切られたのであった。クロードは一仕事終えたような表情で大きく息をつく。

「……よし、僕たちも頑張るよ!」

 クロードはそう言って、やや退屈そうに戦場を眺めていたレナたちを招集した。すると待ちくたびれたかのように彼女らはクロードのほうを振り返る。思えば結構長いあいだ、仲間を放置して通信をしていたんだなとクロードはこのとき気付かされた。

「ようやくですわね。わたくしたちも早くキーサイド王国に行きましょう」
「もうこうなりゃ、混乱に任せて強行突破だね」
「ええ。今から補助呪紋でしっかり準備していきましょ」

 セリーヌ、レオン、レナが立て続けにそう言った。クロードはそれを聞いてこくりと頷く。

 ディアスとプリシスに頼るだけではいけない。自分たちも混乱するキーサイド王国へ向かうべく、クロードを始めとした5人は声を上げて一致団結したのだった。